「寝ない赤ちゃん」との毎日――わたしの育児のはじまり(2)

長女

寝ない赤ちゃんと、わたしの育児(2)――息ができた、ほんの少しの時間

泣き崩れた相談窓口

正直、「前に進もう」と思っていたわけじゃありません。

ただ、限界でした。

このままだと、何か取り返しのつかないことが起きてしまうかもしれない。
そんな恐怖をはじめてはっきりと感じて、震える手で、子育て相談窓口に電話をかけました。

「誰か、助けてください」
心の中では、そんな思いでいっぱいでした。

面談の日、何を話したのか、正直ほとんど覚えていません。

話し出した瞬間、崩れるように泣いてしまったことだけ、よく覚えています。

職員の方は驚くこともなく、ただ、優しく、静かに、私の話を聞いてくれました。

保育園ではなく、一時預かり

最初に提案されたのは、保育園での一時保育。

でもどうしても気が進まず、「まだそこまで預けることは考えていません」と答えました。

するともうひとつ、別の選択肢を紹介してもらいました。

自治体が行っている“子育て支援の一環としての預かりサービス”です。

最大で4時間まで、月の利用回数は制限あり、有料。

それでも、ほんの数時間だけでも子どもと離れる時間ができる。

当時の私は専業主婦で、子どもを預けることに大きな迷いや罪悪感がありました。

「母親なのに…」
「私が頑張れないなんて、最低じゃないか」

そんな思いがぐるぐる回っていました。

でも、このままではもう限界だと感じて、すがる思いで預かりを利用する決心をしました。

「お母さんのための預かりです」

そして、そこで出会った保育の先生が、私を救ってくれたのです。

娘をあたたかく迎えてくれて、
「こんなことができたんですよ」「今日はここまで頑張りましたよ」と、
ほんの少しの成長を一緒に喜んでくれる。

家族以外で、娘のことを見守ってくれる存在がいる。

それが、どれほど心強かったか。

先生が言ってくれた言葉を、私は今でも忘れられません。

「これは、お母さんのための一時預かりなんです。
だから、頑張らなくていいんです。」

さらに、こんなふうにも言ってくれました。

「後ろめたくなんて思わなくていい。
そのために、私たちがいるんだから。
思いっきり、ゆっくりしてきて。
お母さん、あなたちゃんと頑張ってるよ。」

その言葉に、私は何も返せなくて、ただ、静かに涙があふれました。

限界まで張りつめていた心が、
その瞬間、少しだけ緩んだ気がしました。

娘が自分で歩き出した日

そしてもうひとつ、忘れられないことがあります。

極度の人見知りだった長女が、
その先生にだけは心を開いたのです。

いつも他の先生時は離れるときに泣き叫ぶのに、
その先生のときだけは、お気に入りの猫のハンドタオルを握りしめながら、
自分から保育室へ入っていったのです。

私の手を離れて、静かに、でもしっかりと歩いていくその後ろ姿を見たとき、
私もまた、もう少しがんばってみようと思えました。

育児は、ひとりで抱えなくていい

育児は、ひとりで抱えるものじゃない。

そう気づかせてくれたこの経験は、
今の私にとっても、心の支えになっています。

「みんなで育てていく」――

そう思えるだけで、
あの頃の私は、なんとか呼吸ができたのです。

先生に、やっと会いに行けた日

ちなみに、そのとき出会った保育の先生には、今でもたまに会いに行っています。

でも、次女の出産とコロナ禍が重なったこともあって、
しばらくはなかなか会いに行けず、数年が経ってしまいました。

久しぶりに、再会できたとき――
先生の顔を見た瞬間、あの頃のいろんな記憶が一気に押し寄せてきました。

先生は変わらず笑顔で、「母親の余裕と貫禄、ついてきたじゃん」と声をかけてくれました。

そして、ふとまじめな表情になって、こう言ってくれたんです。

「あんたは立派だよ。よくここまで頑張ったね。」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなって。

気がつけば、私は涙をこらえきれずにいて、
先生も「よくここまでやってきたね」と、目に涙を浮かべてくれていました。

2人して泣きながら、しっかりハグをしました。

あの頃、泣いてすがるようにして相談窓口にたどり着いた私のことも、
ここまで歩いてきた時間のことも、
全部を見ていてくれた人がいる。

そのことが、何よりもうれしくて。

育児の孤独を越えて、今思うこと

苦しかったあの日々も、今では少しずつ過去になりつつあります。

でも、あのとき感じた孤独や不安、誰かに助けてほしかった気持ちは、
今も私の中に残っています。

だからこそ、誰かが「ここにいるよ」と言ってくれることが、
どれだけ心強いかを、私は忘れずにいたい。

次は、その「助けて」の声に、
そっと気づけるような人でありたい――そんなふうにも思っています。

「頑張らないでいい」「頑張らないように、頑張りな」

私の周りの人は、いつもそう言ってくれます。

その言葉に、私は何度も救われてきたんです。

だから今も、ときどき自分にそっと言ってあげています。

そしていつか、誰かが苦しんでいるとき、
「大丈夫だよ」って、そばにいてあげられる人になれたら――

そんなふうに思っています。